
社会保険労務士試験の学習範囲は、
日頃ニュースでもよく目にします。
その中で、学習者なら誰でも知っている当たり前のことが、
さも意外かのように報道されていることが
少なくありません。
つい先日も、同一労働同一賃金の影響で
非正規労働者にも通勤手当が支払われた結果、
その分月々引かれる保険料も値上がるという
ニュース(というかコラム?エッセイ?)に
驚かれる人が多数いました。
通勤手当が報酬に含まれることは、
学習者なら誰でも知っている基礎事項です。
それを一般の人は、自分のことなのに
知らないのです。
もしくは税金等、他の法律と混同しています。
今回は、一般の人が普段意識することのない
「会社が負担するお金」について
紹介してみたいと思います。
1:労働保険料
例えば求人サイトなどに掲載されている労働条件の
中で「社保完」と書かれている場合、
労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険の
制度が整っていることを意味します。
労働保険料とはそのうちの
「労災保険、雇用保険」
についてです。
会社は原則として毎年以下の保険料を
国に支払わなければなりません。
賃金総額×(労災保険料率+雇用保険料率)
賃金総額とは全従業員に対する
1年分(有期事業は全期間分)の賃金全額です。
通勤手当や賞与はもちろんのこと、
食事、被服、住居の利益など
通貨以外のもので支払われるものも
含まれる場合があります。
労災保険料率は
その他の各種事業では1000分の3、
雇用保険料率は
一般の事業では1000分の9です。
従って、年収平均500万円
(もちろん手取りではない)の従業員を
10人雇っている会社が毎年負担する
労働保険料は
5000万円の1.2%である
60万円となります。
このうち雇用保険料については、
1000分の9のうち1000の3は
労働者が負担することとなるため、
その分だけ毎月の給与明細から引かれている
というわけです。
その他、特別加入保険料、印紙保険料、
一般拠出金、メリット制、
労災と雇用の適用労働者が相違する場合等で
額は変わってきますし、
労災保険料率、雇用保険料率とも
事業の種類によって大きく異なりますが
(労災は1000分の2.5から
1000分の88まで、
雇用は1000分の9から
1000分の12まで)
原則は上記の通りの金額です。
2:健康保険料
健康保険料については、個々の労働者の
月々の報酬を標準報酬月額等級に当てはめ、
それに応じた標準報酬月額に保険料率を掛ける
方法で算出します。
賞与が支払われた月は、賞与だけ別に算出し、
標準報酬月額と合わせた額に
保険料率を掛けることとなります。
例えば、従業員10人のうちの
1人の年俸が500万円の場合、
その人の1か月の給料は416666・・なので
等級は27級となり、標準報酬月額は
410000円として計算されます。
健康保険料は原則として
4、5、6月に支払われた報酬で
1年分の保険料が決まるため
(そのため1年分の通勤手当が4月にまとめて
支払われる場合などは高めに算定される場合あり)
この間の報酬が上記の通りであれば、
その年の9月から翌年8月までは、
途中で報酬が大きく変わらない限り
標準報酬月額は410000円のままです。
また、この会社が加入している保険が協会けんぽで
都道府県単位保険料率の最も高い佐賀県の場合、
保険料率は1000分の106.8です。
(最も低いのは新潟県で1000分の95.0)
さらに介護保険料率は1000分の18.0です。
(健康保険組合の場合は、組合ごとに異なる)
従って、計算すると以下の通りとなります。
410000×1000分の106.8
(=43788)
+
410000×1000分の18.0
(=7380)
=
51168円。
この金額が、この従業員一人に対して
会社が毎月支払わなければならない
保険料です。
年額にすると614016円です。
このうちの半分が、労働者個人の
毎月の給与明細から引かれています。
もちろん介護保険対象外の人には
介護保険料は引かれません。
3:厚生年金保険料
厚生年金の場合の計算方法は
健康保険とほぼ同様ですが、
保険料は1000分の183.0です。
そして等級は、健康保険の場合は
50級の区分ですが、
厚生年金の場合は
32級に分けられており、
上記の例では24級に当てはまります。
ただし、標準報酬月額は同様の
410000円です。
計算すると、
410000×1000分の183.0
=
75030円
この金額が、この従業員一人に対して
会社が毎月支払わなければならない
保険料です。
年額にすると900360円です。
このうちの半分が、労働者個人の
毎月の給与明細から引かれています。
4:まとめ
上記の例だと、保険料だけで年間概ね
60万円
+614016円×10人分
+900360円×10人分
=1574万
この金額を会社が納付しなければなりません。
このうち健保、厚年、雇用は労働者も負担しますが
納付義務はあくまで会社にあります。
労働者は負担すべき金額の
一部を払うだけで済んでいるということを
わかっていない人が意外に多いです。
この超少子高齢化社会の中で、
これらの保険料は今後大幅に上がっていきます。
もちろん税金や経費等もどんどん上がります。
当然国民の財布のひもは固くなる一方です。
それはすなわち、企業の利益の減少に直結します。
利益が減るなら、経費を減らすしかなく、
ステルス値上げ、ブラック化、リストラとなり、
客からも従業員からも見捨てられ、
終焉を迎えていく。
この流れ、個々人が思っている以上に
深刻かつ切迫しています。
「知らない人たち」は、本当はもっと焦らないと
いけないはずなのです。そういう人たちに
気遣う暇などないくらいに。
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